コラムColumn

支配人のひとり言12

練習グリーン(P2)改修工事

 ゴルフ業界に身を置いて33年の中で、日本のグリーン(関東)について考えてみると、およそ10年単位で大きな動きがあったと感じています。
 私が社会人に成りたての1990年代はバブル真っただ中、ゴルフ場も造成ラッシュで、ベントグラスの管理手法やサンドグリーンの進歩もあり、ベントワングリーンが新設ゴルフ場の主流となっていきました。
 一方、既存の2グリーンのゴルフ場では、ひとつはベントグラス、ひとつはコーライ芝を採用し、主に「寒い」「暑い」で使い分けていたのです。
 2000年代になるとベントワングリーンで通年営業するコースが人気となり、2グリーンのコースでもその影響を受けてコーライ → ベントへの改修が進みました。その結果、本来の2グリーンの目的は無視する形で2ベントのコースが増えていきました。ベントグラス自体も品種改良され、暑さに強い「ニューベント」と呼ばれる品種が次々と出てきたことも一因です。
 ところが更に2010年代からは、「猛暑」が流行語となるくらい夏の暑さが厳しくなり、コース管理の技術進歩すら追いつかなくなってきました。そこに暑さ大好き、生育旺盛なバミューダグリーンの導入もみられ、芝の種類は違いますが、本来の2グリーンへの回帰現象が最近のトレンドです。
 一方グリーンは、「本来ひとつであるべき」との議論の末、東京オリンピックでみられたように2グリーンから1グリーンへの転換を図るコースもあり、このケースはほぼベントの1グリーンです。このように2グリーンを取り入れた日本のゴルフ界で、グリーンの仕様は迷走しています。

  • 2グリーン(ベント・コーライ)

  • 2グリーン(ベント・バミューダ)

  • 1グリーンの当倶楽部

 「2グリーン文化は日本特有のもの」という話はこれまでにもしてきましたが、世界のスタンダードは、気候に合った芝種を採用するという当たり前のルールです。
 例えば暑いタイではバミューダグラス、涼しいカナダではベントグラスという具合ですが、四季があり寒暖差の激しい日本では「季節に合う両方を採用」と考えた設計家がいて、器用な日本人ならではの2グリーン文化が受け継がれてきました。
 長年ゴルフ場のキーパー達の苦労をみてきた結論は、「コーライ1グリーン」が日本の気候には最も合っているというものです。コーライ芝は夏に強いのは勿論ですが、実は休眠期の冬にもかなり強く、色落ちはしますが、少しの凍結には耐えることができます。その点、同じく耐暑性の高いバミューダグラスは、凍結や日陰には弱く、冬場の保護が欠かせません。
 コーライグリーンが一般ゴルファーに好まれない一番の理由は、葉が硬いために滑らかに転がらない場合があるという点です。確かにベントグラスよりも高速グリーンに仕上げるのは難しいですが、トーナメント開催中の「川奈ホテルGC」や「宮崎CC」をみると、1年を通して使い続ければ、かなりのパッティングクオリティーを保つことが可能です。
 コーライグリーンは、2グリーンであるために休ませる期間が長くなると、葉も太く硬くなり易く、マット化することでスムーズな転がりが得られなくなります。その結果コーライは不人気となり、ベント使用率が上がるという悪循環です。
 このように考えてみると、井上誠一氏を筆頭に著名な設計家が、数多くの2グリーン名門コースを残した功績は大きいのですが、狭い土地にあまり工夫もなく2面のグリーンを並べたコースも少なくないので、コーライ1グリーンであれば、日本のゴルフ場は全く違った歴史を歩んできたのではないか? と考えてしまいます。

  • 真夏の雷雨

  • ベントのダメージ

  • ベントのダメージ

 今年の夏は「暑い10年」の中でも特別で、ベントグリーンにとって本当に過酷でした。実はただ暑いだけならば何とか耐えられるのですが、そこに雷雨や豪雨が重なる条件が最も難しいのです。敵は「高温多湿」です。
 当倶楽部でも何ホールかのグリーンで過去に例を見ないダメージを受けました。ニューベントのインターシードなど、いくつもの夏越し対策を試みてきましたが、耐えきれませんでした。周辺のゴルフ場でもうち以上の被害が出ているところもありました。
 ベントグラスは涼しくなれば回復は早いので、すでに回復傾向にはありますが、今後の夏を考えるとベントグリーンの苦悩はなくなりそうもありません。ただ手をこまねいていても仕方がないので、練習グリーンの1つをリセットし、新たに作り直す決断をしました。

  • 芝切り

  • 耕運

  • 整地→転圧

  • 吹付け播種

  • DC1発芽拡大図

  • 11月現在

 お時間のある方は、2009年11月のバックナンバーを読んで頂きたいのですが、もう1つの練習グリーン(アウトコース)を同様の手法で私がキーパー時代に改修しています。今回は、当時よりもさらに耐暑性の高いと言われるDC1というベントグラスを採用しましたが、20面あるグリーンの2面が「完全ニューベント」になることで、少しでもグリーンキーパーの心労を減らしてあげたいと思っています。
 ところで、「コーライ1グリーンが理想的」と結論付けながら、何故改修するコースが少ないのか? と思われている皆様にお答えします。
 「コーライグリーンは使えるまでに時間がかかる」のです。理想の転がりを提供できるまでには、上手くいって3年近くは必要です。とりあえず使えるというレベルでも、1年近くは営業を止めてクローズしなければなりません。ベントグラスやバミューダグラスは仕上がりの早さが魅力です。なかなか長期間の無収入に耐え得るゴルフ場は少ないのです。
 井上先生の時代に、設計を「コーライ1グリーン」に舵を切ってもらえれば・・・という話をしたのはそのためです。
 内陸酷暑の埼玉県で、ベントワングリーンの維持に不安を覚えた支配人のひとり言でした。

清澄ゴルフ倶楽部 支配人 野呂田 峰

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